爆音の向こう側

深夜12時。

信じられない爆音で私の3つ隣の駐車場に停め、帰路についた改造車。

私の住むアパートは、駐車スペースが狭いということもあり、

その爆音大迷惑カーは、いつもバック駐車で駐車場に車を停める。

あまりに音がうるさいため、いっそのこと苦情でも入れて、その車を元の車に戻さしてやろうか!!という悪魔の声を押し殺し、奥歯を噛みしめる日々が続いた。

そんなある日、私は東京に行くことがあり、旧友たちと数日間に渡って、酒を交わす機会を得た。

その中に5,6年ぶりに会った友人に生粋の車好きがいた。

酒を身体に流し込み続けていると、不意にその友人が後日ドライブに行こうと誘ってきた。

何事も経験マインドの私は、2つ返事で承諾した。

後日、集合場所に止まっていたのは、見たこともないほど改造されたレーシングカー。

エンジンを掛けた瞬間、

バッバッバッバッコーーンッ!!!!

周囲の音が何も聞こえないほどの爆音が周囲を包み込んだ。一体何なんだ!!この車は。

助手席に座ると思ったより座り心地は良い。信号で停まり、発進するとあまりの爆音とその車体美に通行人達からの視線を強く感じた。

友人に聞くと、この車はそこらの改造車とは、格が違うほどのエンジン音だと説明された。

自慢なのか陳謝なのかよくわからない説明に思わず笑ってしまう。

信じられないほど爆音を奏でるこいつと共に、東京の首都高周辺を駆け抜けた。

あまりの爆音に前方を走る車は、道を開けてくれる。

この爆音なら、不安や不満もぶっ飛ぶだろうなと夏の訪れを感じる生暖かい夜風を浴びながら感じる。

別の友人を拾って、また車を走らせる。

静寂に鳴り響く、圧倒的爆音。次第に耳は慣れていき、心地よくすら感じてきた。

夕食を取るために、近くのコインパーキングにバック駐車で車体を停める。

レーサーは私達にこの車のバック駐車は難易度が高いと言い放ち、そこから1、2分、ヤンキーが車を吹かしているような音楽を奏でた。

その時、私は不意に近所に住む、大迷惑カーのことが頭をよぎった。

あいつも実は苦労していたかもしれない。

そう思うとなぜか少し愛おしくなる。

友人との楽しい時間がすぐに過ぎ、私は我が家がある広島に帰って2日が経過した。

夜12時前、不思議と私は大迷惑爆音カーのバック駐車を待ち遠しく待っていた。

2023年5月8日(941字)

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