スマホが示す時刻は、22:47。
目的地行きの夜行バスは、23:35発。
眠気を吹き飛ばすのに、3秒もかからなかった。
誰がどうみても、わかるほど私は、美しく華麗にそして耽美に、寝過ごしたのだ。
家から、夜行バス乗り場まで、日中に調べた時はdoor to doorで30分。
だが、こんな時間に最寄りまでのバスが出ている可能性は、かなり低い。
スマホを見ると、友人からの不在着信が。
咄嗟の判断で、折り返す。駅まで送って欲しいという旨を伝える為だ。
電話をかけるも、そんな安直な考えは、すぐに吹き飛ぶ。
ここでまず、すべき行動は、遠征準備と思考の整理。
幼児の残飯のように、途中で投げ出された準備品たちをスーツケースにぶち込む。
ここで大切なことは、コンタクトとゴルフの準備だけ忘れないこと。
要点だけは抑える、これは人生のライフハック。
物を大切にする自称ミニマリストとは、到底思えない雑さで、モノを投げ込む。
準備をしながら、作戦を立てる。損益分岐点を考える。
ここで、最悪のパターンは頑張って夜行バス乗り場まで行ったのに、乗れないこと。
準備を速攻で済ませ、家を出る。
また、決断が迫られる。
最寄駅まで何で向かうか。電動自転車?ダッシュ?車?バス?
スマホで、バスの時間を調べるがもうない。ここで、目的地までの時間が一気に伸びる。
車は、駐車場代がバカにならない。自転車も無料で停めれる場所を知らない。
結論、選ばれたのは、フルマラソンをノリ走り切った最強の脚力だった。
駅まで4キロ。歩けば1時間、走れば20分。
何とも微妙なラインだが、考えるより行動せよ
夜の静かな街、ガラガラとスーツケースを引きずり猛ダッシュする音が響き渡る。
走っている時にすることは、プランBを考えること。
電車の時刻を調べると、遅延していて、正確な時刻が出てこない。リスクが高なる。
考えろ、俺。
その時、対向車線と逆方向に走っていた私の横をタクシーが素通りする。
突如現れた、プランBが、プランAに変わるのに、時間はかからなかった。
反対車線に行き、走り続けて、タクシーが来たら、それに乗って夜行バス乗り場まで、行こう。
乗り遅れのリスク、予定が狂うリスク、金銭的に面を考えても、合理的だった。
5,6分ほど、走ると運良く、タクシーが後方から来るのが、見聞色で分かった。
覇王色でタクシーを停めて、目的地と今の状況を伝える。
きっと今、あなたの特技は何ですか?と問われれば、
タクシーの運転手に圧をかけると答えるだろう。
海外仕込みのタクシー交渉術で、彼を仲間に引き入れる。あとはケツを叩くだけ。
すると、彼は高速に乗るか?と聞いてきた。
Yes!
なんか、自分がどこにいるのかわからなくなって英語で答える暴挙。
昔、スーパーのレジでレシートをもらった時に、「ありがとうございます」というところを、
間違えて、「ごちそうさまでした」と言ったことを不意に思い出す。
高速に乗り始めて、跳ね上がるメーターを横目に、勝ちを確信する。
タクシーの運ちゃんに、
「こんなにタクシー代が高いのは、初めてです」
というと
「時間って高いんですよ…」と言われる。
私は、次の日に新幹線で行けば9900円のところを、夜行バス乗り場までのタクシー代で8000円飛ばした。
だが、まだ勝負は終わっていない。ここで最悪なのが、タクシー代を払って、結局乗り遅れること。
そんなオチになったら、面白いですよね、運ちゃんと談笑していると目的についた。
出発時刻まで残り10分を切っている。
このビルの2Fに上がってください。そう仲間に言われ、走る、走る。
だが、都会のバス停はよくわからない。迷う、迷う。
ここで大切なことは、すぐに人に聞くこと。
近くのスタッフを捕まえて、2人を術繋ぎに目的地に本当にギリギリ着いた。
過去にしたあの日、あの時にした経験が、全て今に、繋がっている。
折り返しをかけた友人、友人の社用車、貰った電動自転車、昔にたまたま撮っておいたバス停の時刻表。
フルマラソンを完走してついた謎の自信。タクシーの運ちゃんとの交渉術。ピンチの時は人に速攻聞く潔さ。
私は、勝ったのだ。
そして、自分が招いたちょっとした不幸をプラスに変えるために
バスの中で、ひたすら文章を書いている。